ベンガル猫の遺伝性疾患
ベンガル猫は初期の交配において、アジアンレパード(ベンガルヤマネコ)と、アメリカのドメスティックキャットを交配して作られました。
ベンガル猫に現れる遺伝性疾患は、この時期に交配されたアビシニアン、アメリカン・ショートヘア、エジプシャン・マウ、シャムなどの遺伝性疾患を受け継いでしまったと考えられます。
Cattery夢猫庵ではオーストラリアのORIVET GENETIC PET CAREに遺伝子検査を依頼し、すべての親猫が、ピルビン酸キナーゼ欠乏症(PK欠損)、進行性網膜委縮症(PRA)、肥大型心筋症(HCM)、多発性嚢胞腎(PKD)、脊髄性筋萎縮症(SMA)について、NORMAL/CLEARであることが証明されています。
多発性嚢胞腎(PKD)や肥大型心筋症(HCM)は、優性遺伝のため両親のどちらか一方がこの遺伝子を持っていれば確実に子孫に遺伝します。
ピルビン酸キナーゼ欠乏症(PK欠損)や進行性網膜委縮症(PRA)のように単一遺伝子疾患の劣性遺伝の場合、両親のいずれかがノーマルであれば、子猫はキャリアとなり、臨床的には健康(臨床症状無し)であると考えられますが、遺伝的な継承は単純なプロセスではないため、キャリアの猫を繁殖に使うべきではないとCattery夢猫庵では考えています。
NORMAL/CLEAR/NEGATIVE ノーマル/クリア/ネガティブ・・・ 正常型/正常型の遺伝子を持ってる健常個体。
CARRIER キャリア・・・変異型/正常型の遺伝子を持っているが未発症・臨床症状無しの個体。
AFFECTED アフェクテッド・・・変異型/変異型の遺伝子を持っている発症個体、またはいずれ発症する個体。
ベンガル猫に多く現れる遺伝性疾患
ピルビン酸キナーゼ欠乏症(PK-DEF)
アビシニアン、ソマリ、ベンガル、エジプシャンマウ、ラパーマ、シンガプーラ、サバンナ、サイベリアン、メインクーン、ノルウェージャンフォレストキャットに見られる疾患です。
ピルビン酸キナーゼ欠乏症は、主にアビシニアとソマリに特に良くみられる遺伝病ですが、アメリカやイギリスなど海外ではベンガル猫でも報告例が出ています。
ピルビン酸キナーゼは、赤血球のエネルギー代謝において重要な赤血球酵素です。
したがって、この酵素が欠けている場合、溶血性貧血が生じることがあります。この貧血の症状としては、重度の嗜眠、衰弱、体重減少、黄疸、および腹部拡大が挙げられます。
ピルビン酸キナーゼ欠乏症は常染色体劣性形質として遺伝するため、両親がこの遺伝子を持っていれば発症し、両親のどちらか一方がこの遺伝子を持っている場合、子猫はキャリアとなり臨床的には健康ですが、子孫に欠損遺伝子を残します。
進行性網膜委縮症(PRA)
アビシニアン、ソマリ、アメリカンカール、バリニーズ、オシキャット、ベンガル、シンガプーラ、トンキニーズ、オリエンタルショートヘア、シャム(サイアミーズ)に見られる疾患です。
猫の進行性網膜委縮症は、網膜が変性して薄くなったり委縮したりしてしまう症状です。
進行性網膜委縮の原因は、先天的な遺伝性なものと後天的な栄養性のものがあります。
猫の進行性網膜委縮の多くが、後天的に発症するもので栄養不足や偏食が原因で発症してしまいます。類似疾患の突発性後天性網膜変性症(SARD)は、タウリン欠乏やニューキノロン系抗生物質の過剰投与など原因で起こる後天的な疾患です。
先天性の進行性網膜委縮症は、出生時には正常視力を有し、生後4~7か月頃から発症が確認されます。
視力喪失はゆっくりと進行し、可変性であり、ほとんどの猫は通常3~5歳で完全に失明します。先天性の進行性網膜委縮症には治療法はありません。
先天性の進行性網膜委縮症は常染色体劣性遺伝であるため、この疾患は性別に関連せず、両親がこの遺伝子を持っていれば発症し、両親のどちらか一方がこの遺伝子を持っている場合、子猫はキャリアとなり臨床的には健康ですが、子孫に変性遺伝子を残します。
肥大型心筋症(HCM)
メインクーンとラグドールでは突然変異の欠損遺伝子が決定されているため、メインクーン型とラグドール型を調べることが出来ます。
それぞれ、メインクーン型はメインクーン、アビシニアン、ソマリ、ベンガル、エジプシャンマウ、ノルウエージャンフォレストキャット、ラグドール型はラグドール、サバンナ、サイベリアン、シンガプーラに見られる疾患です。
肥大型心筋症は猫の心臓病の最も一般的な形状であり、心不全、血栓塞栓、突然死を引き起こします。
正常で健康な左心室は、体内に血液を送り出すための作業負荷が大きいため、右心室よりももともと厚いですが、肥大型心筋症では左心室の筋肉が異常に拡大または太く肥厚することで、心室内の容積が減少し、心臓が収縮するたびに拍出する血液量が減少します。
左心室の心筋肥大は、高血圧、腎臓病や甲状腺機能亢進症などの後天的疾患の合併症として発症することもありますが、後天的疾患の合併症ではない肥大型心筋症の原因は、心筋の成長を制御する遺伝子の遺伝的突然変異であると考えられています。
肥大型心筋症を発症した猫とその子孫は、繁殖に使うべきではありません。
他の猫種に現れる遺伝性疾患
ベンガル猫には報告が少ない(あるいは無い)が、他の猫種に現れる遺伝性疾患についてご紹介します。
FAMILIAL EPISODIC HYPOKALEAMIC POLYMYOPATHY(家族性周期的低カリウム血症多発性筋炎)
好発猫種・・・バーミーズ(ビルマ)、バーミラ、ボンベイ、コーニッシュレックス、デボンレックス、シンガプーラ、スフィンクス、オーストラリアンミスト、トンキニーズ
臨床症状は、猫の体のすべての筋肉に影響を及ぼす可能性のある骨格筋の衰弱、または特定の筋肉に限定することができます。
これは主に首筋に見られますが、時には四肢にしか影響しません。
周期的に病気になる回復するを繰り返す低カリウムを伴う筋炎です。
この病気は通常は致命的ではなく、食事にカリウムサプリメントを加えることで管理することができます。
GANGLIOSIDOSIS – TYPE 1 & 2(ガングリオシドーシス GM1&GM2)
好発猫種・・・バーミーズ(ビルマ)、アメリカンショートヘア、日本猫、コラット、サイアミーズ(シャム)、オリエンタルショートヘア、トンキニーズ、ピーターボルド、タイ
ヘキソサミニダーゼ欠損により、ガングリオシドーシスと呼ばれる物質が、様々な組織に蓄積されて起こる致命的な遺伝性疾患です。
若齢期に発症し進行性神経筋機能障害と発育不全が現れます。
GLYCOGEN STORAGE DISEASE TYPE IV(グリコーゲン貯蔵病)
好発猫種・・・ノルウエージャンフォレストキャット
グルコース代謝の遺伝的異常です。
グリコーゲン分岐酵素(GBE)の欠乏が、筋細胞、肝細胞およびニューロンに異常なグリコーゲン蓄積をもたらし、漸進的に良性から致死性の器官機能不全を引き起こします。
MUCOPOLYSACCHARADOSIS(ムコ多糖症)
好発猫種・・・ラグドール、シャム(サイアミーズ)オリエンタルショートヘア、バリニーズ、トンキニーズ、アメリカンショートヘア、ピーターボルド、タイ
ムコ多糖症は、「ムコ多糖」を分解する酵素が遺伝的に欠損していることで、細胞内に「ムコ多糖」が蓄積し、軟骨、角膜などに異常が生じる、進行性常染色体劣性疾患です。
CARRIER キャリアでは正常な酵素量の半分が生産されるが、AFFECTED アフェクテッドは全く酵素を生産しません。
臨床症状は3ヶ月齢から始まり、筋肉の衰弱、骨の異常、頭蓋骨と体の比率の不均衡、塊状の足および角膜の曇りや歩行異常が現れます。
POLYCYSTIC KIDNEY DISEASE(多発性嚢胞腎 PKD)
好発猫種・・・ペルシャ、ヒマラヤン、シャルトリュー、バーミラ、アメリカンショートヘア、スコティッシュフォールド、ブリティッシュ、ラグドール
腎臓にできた小さな嚢胞は出産時にすでに存在し、小さな嚢胞として始まり、徐々にサイズが大きくなります。
嚢胞のサイズが大きくなると正常な腎臓組織が損傷し、最終的に腎不全を引き起こします。
5歳頃から症状が出始め進行していき、腎機能の大部分が失われ、慢性腎不全による死亡例が多い症例です。
PKDの猫の腎不全の平均年齢は7歳です。
SPINAL MUSCULAR ATROPHY(脊髄性筋萎縮症)
好発猫種・・・メインクーン
胴や四肢の筋肉を動かす脊髄の神経が消失することによって筋肉が弱くなり、変性する病気です。
生後3~4ヶ月で発症し、後ろ足が弱くなり、かすかに震えるようになります。
生後5カ月頃までに、ジャンプすることが出来なくなり、後ろ足の揺れを伴う歩行をするようになります。